小説の表紙に見るおしゃれなデザイン
書店や図書館で新しい本を手にするとき、作者の好みや小説の内容だけでなく装丁や装画のデザインも大きなポイントになるでしょう。
いわゆるジャケ買いと称される行為は、小説の選び方にも当てはまるのです。ここでは、出版年が比較的新しい小説の中から、おしゃれな表紙デザインをおすすめしていきます。
物語の雰囲気を伝えるおしゃれな表紙は飾っておきたくなるものばかりです。(作者名は敬称を略しています)
おしゃれで素敵な表紙デザインの海外小説
水彩イラストがおしゃれで可愛い表紙の小説
小説の表紙デザインは、イラストや絵画、写真と文字の組み合わせ。それらをまとめて装丁と称します。
最近のおしゃれな表紙は、イラストがトレンド。綺麗な色使いの表紙が多いことも特徴です。
ここでは、表紙がおしゃれなおすすめの海外小説を見ていきましょう。
アリ・スミスによる小説『秋』の表紙は、水沢そらによるおしゃれで可愛い水彩イラスト。よく見ると作者名も手書きでイラスト化されています。
物語を美しく昇華させるおしゃれな表紙の小説
アメリカでは700万部のベストセラーとなったディーリア・オーエンズの長編小説『ザリガニの鳴くところ』は、2021年度の本屋大賞翻訳小説部門で大賞に選ばれました。
作品の世界観がそのまま表現されていると評価の高いおすすめの表紙は、イラストレーターのしらこによるものです。
小説の舞台となる湿地がピンク色の空と共に美しく描かれたおしゃれな装画ですね。
「人間への信頼」を伝えるおしゃれな表紙の小説
続いておすすめするおしゃれな表紙の小説は、ジャン=クロード・グランベールの『神さまの貨物』。
『ザリガニの鳴くところ』と同じ2021年度本屋大賞翻訳小説部門で2位となった作品です。
雪景色の中に残る足跡と一人の女性の後ろ姿がおしゃれな装画はまめふくによるもの。こちらは第二次世界大戦下のホロコーストの物語です。
大人の童話風タッチのおしゃれな表紙の小説
2017年にノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの受賞後初の最新長編小説『クララとお日さま』では、イラストレーターである福田利之の作品が全面にあしらわれています。
象徴的なお日さま=ひまわりと少女、色とりどりのお花とフレームのように伸びるつたがクラシカル。
これまで日本語に翻訳されて出版されたカズオ・イシグロ作品の装丁は、本作も含めて坂川事務所が担当しています。
綺麗な赤が目を惹くおしゃれな表紙の小説
イギリスで大ヒットとなったリチャード・オスマンのミステリー小説『木曜殺人クラブ』の表紙は、ベースカラーの綺麗な赤が印象的なデザインです。
未解決の事件を推理し調査することを趣味としている元気な老人たちのお話は、本格好きの人にもおすすめ。
カバーイラストは千海博美の作品です。千海さんのイラストは、日本の小説の表紙にも多数採用されています。
絶妙な色使いがおしゃれな表紙の小説
続いておすすめする表紙がおしゃれな小説も、 M・W・クレイヴンによるイギリスのミステリー小説です。
人気シリーズの第2作でもある『ブラックサマーの殺人』の表紙は、イラストレーターの 柳智之が担当。青のグラデーションが綺麗です。
シンプルなラインの中におしゃれなエッセンスがぎゅっとつまっているような柳智之の作品は、日本の小説の表紙にもよく使われています。
作品の世界観を伝えるおしゃれな表紙の小説
フランシス・ハーディングの新作小説『ガラスの顔』の表紙も、おしゃれなイラストがデザインされています。
幾つもの鳥かごと、その中にいる赤い服の少女という組み合わせが、奇妙にゆがんだ世界を描く小説ともリンクしているのではないでしょうか。
おすすめの装画は牧野千穂によるもので、装丁は大野リサが手掛けました。
19世紀の奴隷制を描く表紙がおしゃれな小説
イラストレーターしらこの装画がおしゃれな小説をもう1作おすすめします。
先ほどの『ザリガニの鳴くところ』の表紙にはピンクに染まる空と湿地が描かれていましたが、タナハシ・コーツの『ウォーターダンサー』の表紙は、透明感のあるブルーが基調。
タイトルにもある「水」がキーワードになっている小説の世界を、おしゃれに表現しているのです。
シュールなアートの表紙がおしゃれな小説
コロナ禍で世界中がその対応に奮闘している今、1949年に発表されたジョージ・オーウェルの『1984年』は改めて人気が高まっているディストピア小説です。
発表以来、度々形を変えていくつもの出版社から出ていますが、角川文庫の新訳は2021年3月に登場。
表紙にはベルギーを代表するシュールレアリストの画家ルネ・マグリットが1964年に制作した『人の子』がシンプルに使われています。
綺麗で不思議な写真がおしゃれな表紙の小説
おしゃれな小説の表紙デザインには、写真が使われることもあります。
現代台湾文学選2『冥王星より遠いところ』の表紙に使われている綺麗で幻想的な写真は、台湾の写真家陳威廷のもの。
装丁はオクターヴが担当しています。李翰昇の写真が使われた2020年のシリーズ1作目『次の夜明けに』のおしゃれな表紙もおすすめです。
美しい鎮魂物語とおしゃれな表紙の小説
淡いピンクに染まる空と、カメラを見つめている一頭のシカ。
飾っておきたくなるような美しい写真が表紙となっているのは、アメリカに移住したベトナム人の詩人オーシャン・ヴォンによる自伝的小説『地上で僕らはつかの間きらめく』です。
写真は、中国在住のフリーカメラマンYu Liuによるもの。
ベトナム戦争の影を引きずり続けている90年代のアメリカを舞台に、傷つく魂が美しく描かれています。
おしゃれで素敵な表紙デザインの日本小説
珠玉の短編が編まれたおしゃれな表紙の小説
続いては、おしゃれな表紙デザインの日本の小説を見ていきましょう。
伊坂幸太郎の短編集『逆ソクラテス』は、作家デビュー20年目のおすすめ小説集です。
表紙は、画家のjunaida(ジュナイダ)が担当しています。装丁は名久井直子のデザインです。
細かく書き込まれた子どもたちの表情や、青を基調にした色の使い方が綺麗でおしゃれな表紙になっています。
可愛らしくも危うげでおしゃれな表紙の小説
昭和歌謡にインスパイアされた短編小説を集めた井上荒野の『あなたならどうする』は2020年に文庫化されました。
こちらは、文庫版のおしゃれな表紙です。装丁は大久保明子で、装画を担当したのは岸あずみ。
赤と黒のバランスが絶妙で、可愛らしさと危うさのある表紙です。
2017年に出版された同作の単行本でも、岸あずみの作品が表紙になっていますが、そちらは白×黒で文庫版とは違った印象を受けるでしょう。
緻密に描き込まれたおしゃれな表紙の小説
続いておすすめする柏葉幸子の『亜ノ国ヘ 水と竜の娘たち』も、異世界ファンタジー小説と言えるでしょうか。
不妊治療の末、夫の浮気が原因で離婚した主人公が異世界である亜ノ国で、少女の母親になるというストーリー。
児童小説、ジュブナイル小説の系譜を持ちながら、大人にも読みごたえのある物語が紡がれます。
俯瞰図で描かれる竜と異世界のイラストは、須田杏菜によるものです。
黒猫が可愛いレトロでおしゃれな表紙の小説
小説の表紙を飾る装画だけでなく絵本でも人気の高いイラストレーターNaffyと鈴木久美の装丁が美しい『山亭ミアキス』もおすすめの1冊です。
古内一絵による小説は、日常で疲れ果てたお客がたどり着く不思議な宿が舞台。幻想的な物語を連想させるレトロで美しい表紙がおしゃれです。
Naffyの装画は『夜明けをつれてくる犬』や『ミシンの見る夢』でも見られます。
音楽が聞こえてくるおしゃれな表紙の小説
続いてのおすすめは、青のグラデーションで描かれた夜景と、細いフォントの題名や作者名のバランスが絶妙におしゃれな森博嗣の小説『歌の終わりは海 Song End Sea』です。
TOKYO POPやCITY POPと呼ばれるジャンルの音楽が海外でも注目を集めていますが、こちらの表紙からも都会的なセンスが感じられます。
装画は坂内拓、装丁は鈴木成一デザイン室の担当です。
川をイメージさせるおしゃれな表紙の小説
彩瀬まるの『川のほとりで羽化するぼくら』の表紙は、植田真の美しいペイントです。
装丁デザインを担当した大久保明子によって、素敵なカバーになっています。題名にもあるように、川が重要な役割を果たす4つの短編小説集です。
鮮やかなイエローやブルーを使ったライブ感あふれるペイントにも、川のイメージが投影されているそう。おしゃれな表紙の小説です。
シリーズで揃えたくなるおしゃれな表紙の小説
続いておすすめしたいおしゃれな表紙の小説は、乾石智子の〈オーリエラントの魔道師〉シリーズです。
中でも、『赤銅の魔女』『白銀の巫女』そしてこちらの『青炎の剣士』はシリーズ内の三部作で2021年に揃って文庫化されました。
羽住都が手掛ける装画は、タイトルに含まれた色彩語彙をイメージさせる繊細で重厚な表紙になっています。
三冊並べて飾りたくなるほどおしゃれな小説です。
透明感のあるイラストがおしゃれな表紙の小説
芳納珪の正統派ファンタジー小説『水神様の舟』のおしゃれな表紙は、イラストレーター六七質の作品が堪能できます。
湖に愛された少女セリが主人公。透明感のあるタッチと素敵な光を感じるおしゃれで魅力的な作風には、ファンも多い人気作家さんです。
こちらの小説は、文庫版の書下ろしで2021年11月に出版されます。
物語を的確に伝えるおしゃれな表紙の小説
単行本は2019年に、文庫版は2021年に出版された川上弘美の長編小説『某』。
人間のようで人間でない、性的に未分化の「某」が主人公の物語です。表紙に描かれているのは、まさにその「某」。
イラストレーターである三好愛が描いた「某」は、形も色もバラバラです。
ぽっかり空いた目も、つぶらな瞳のようでもあり空虚な穴のようでもあり。装丁デザインは鈴木成一デザイン室が担当しています。
美しく静謐な写真がおしゃれな表紙の小説
台湾出身で日本在住の作家李琴峰は、日本語で執筆活動をすることでも知られています。2021年に『彼岸花が咲く島』で芥川賞を受賞しました。
受賞作の1作前に発表された『星月夜』では、表紙にRIEKO HONMA撮影のシンプルで美しい写真を使っています。
こちらは、日本の大学で日本語を教えている台湾人と、日本の大学院進学を目指す新疆ウイグル自治区出身の学生との魂の交流が描かれた小説です。
あの頃の恋愛を描くおしゃれな表紙の小説
忘れられないマジックアワーを描くカツセマサヒロのデビュー小説『明け方の若者たち』は、映画の公開に合わせて文庫本が出版されます。
単行本も文庫本も装丁デザインはkern inc.が担当。文庫本では、作中に登場するクジラ公園のような写真が使われています。
こちらの写真は、yansuKIMによるものです。暗闇に浮かぶクジラというシュールな情景と、シンプルなフォントの組み合わせがおしゃれな表紙ですね。
おしゃれな表紙の小説を手にしてみよう
2020年、そして2021年出版の小説の中から、表紙がおしゃれなものをピックアップしました。
イラストレーター、画家、そして写真家の作品を取りりえた装丁は、作品世界と相まって魅力的なものが多くあります。精緻な描き込みもシンプルなデザインも、どちらも魅力的でおすすめ。
おしゃれな表紙の小説は、装画が見えるようにデコレーションしても素敵です。気になる作品があれば、ぜひ手に取ってみてくださいね。
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