【連載小説】この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。

複雑な家庭で育ち、結婚に夢も希望もない藤川 千紗、30歳独身。特定の恋人もつくる気がない千紗は、相手をころころ変え一時的な恋愛を楽しんでいる。そんなある日、探偵事務所の相談員として働いている千紗は、友人の旦那の浮気調査をすることになり… 結婚や人生に悩む女性に贈る、オリジナル小説。

更新日:

※商品PRを含む記事です。当メディアはAmazonアソシエイト、楽天アフィリエイトを始めとした各種アフィリエイトプログラムに参加しています。当サービスの記事で紹介している商品を購入すると、売上の一部が弊社に還元されます。

【連載小説】この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。
アバター画像

あいのさくら

ライター

ヘアスタイリストとして働く傍ら、オリジナル小説を執筆。恋愛を中心に幅広いジャンルを書いています。書籍化経験あり。読者の方に共感して頂けるようなストーリー作りを心掛けています。

この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。(第6話)

【これまでのあらすじ】

帰りの時間を気にせずに済むので、伊野さんと旅行を計画した千紗。旅行は楽しく、好きという気持ちも増したが、こんなことをしていて良いのかという後ろめたさも募った。

そんな中、職場のカウンセラー赤城さんの妹が旦那に浮気された話を聞き、さらに罪悪感を感じていたところ、綾香から「私、妊娠したみたい」と電話が…

前回はこちら▼

この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。(第5話)

1話から読む▼

この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。(第1話)

動揺

動揺

綾香が妊娠……!?それって、当然のことながら悠真さんの子供だよね?スマホを持つ手が震える。動揺に気付かれないよう、そっと深呼吸をした。

「そうなんだ、おめでとう」

『ありがとう!』

「お祝いしなきゃね」

『気が早いよぉ。まだ、5週目だから』

5週目ってことは、1カ月と少し。私と悠真さんが親密になった頃ってこと?綾香とのセックスが苦痛で仕方ないと打ち明けられた時には、もうできていたんだね。

そう考えると、胸の奥にムカムカとした感情が渦巻いた。この感情って――――嫉妬?

 

綾香の妊娠を知った日の夜、ホテルの一室で悠真さんと会った。複雑な心境だった私は、彼の顔をまともに見れない。

「僕も驚いているんだ、まさかこのタイミングで子供ができるとは」

「おめでとうって言うべきよね」

「まだ実感が湧かないよ」

「もう会うのは、やめた方がいいね」

生まれてくる赤ん坊から、父親を奪うわけにはいかない。それくらいの良識は、まだ残っている。こうなってしまった以上、私たちの関係は清算して彼は家庭に戻った方が良い。

頭では分かっているんだけど、涙が零れそうになる。泣き顔を見られたくなくて背中を向けたまま「じゃぁね」って部屋から出ようとした瞬間、抱きしめられた。

「千紗」

「離して。後腐れないようにしようよ」

「そんなの無理だ」

「じゃぁ、どうするの?」

「離婚したい気持ちに変わりはない。だから、少しだけ待ってて」

私はいつか、この時のことを後悔する。引き返せるはずだったのに、どうして流されてしまったの?って。だけど、それでも良いって思ってしまった。

「分かった、待ってる」

後悔しても良いから、この人が欲しい。

 

 

まさかの

まさかの

「あれ、もしかして千紗」

仕事帰りに立ち寄った雑貨店で声をかけられ振り向くと、大学時代の友人が立っていた。黒いツヤのある髪と大ぶりのピアスがよく似合う美人で、仲良しグループの中心的存在だった玲子(れいこ)だ。

「わあ、久しぶりだね! 元気?」

「元気元気! 千紗も元気してた? 今、何してるの? 仕事は? 住んでるのって、この辺り? 」

「ちょ、ちょっと待って。そんな次々に聞かれても答えられないよ」

「あはは、ごめんー」

相変わらずだなぁ、玲子は。明るくて派手な性格の玲子は交友関係が広く、賑やかなのが苦手な私とは正反対。そのため、グループ以外で個人的に遊んだりすることはなくて大学を卒業後は連絡を取ってなかった。

それでも久しぶりに会えたことが嬉しく、お互いに時間があるということで、近くにあるイタリアンレストランに入った。

「千紗、何だか大人っぽくなったよね」

「そう? 実際もう30歳だし。十分大人なんだけどね」

「いや、そうじゃなくて色っぽくなったというか、魅力的になったって意味!」

面と向かってそんなことを言われると、背中の辺りがくすぐったい。私自身そんな自覚はないけど、もし変わったことがあるとしたら、恋をしているからかな……。

 

「千紗と話してたら皆にも会いたくなっちゃった。誰かと連絡とってる?」

「今は……綾香くらいかな」

「綾香!私も時々連絡するよ。って言ってもSNSで繋がってるだけだけどね」

そう言ってスマホを手に取った玲子は、急に顔を曇らせた。

「綾香は今、大変みたいだね」

「あー、つわり?」

綾香はSNSでも妊娠したことを報告していた。今時、安定期に入る前に公表する人は珍しいけど、それだけ嬉しかったのだろう。

私はそれ以来、彼女のSNSは見ないようにしていた。大変なことと言えば、つわりくらいしか思いつかない。

「綾香から聞いてないの?」

「うん? 何が?」

「あの子、流産したって」

え、嘘……。

「千紗も知らなかったかー。SNSであれだけ派手に報告したから、言い出しづらいんだろうね」

「玲子はどうして知ったの?」

「DMでやり取りしてて、その時に聞いたの」

「そっか……」

「落ち着いたら、綾香を励ます会をしようよ」

「うん、そうだね」

 

 

最低な人間

最低な人間

綾香が流産したと聞いた時、正直ホッとした。その反面、命が1つなくなったというのに安堵するなんて最低だと自己嫌悪をする。私ってこんなにも自分勝手で冷たい人間だった……?

「あ、丁度良いところに帰って来た」

玲子と連絡先を交換してから別れ、家に帰ると部屋で母が荷物をまとめていた。家にいる間はずっとノーメイクにジャージ姿だったくせに、今日は水商売の女のように濃いメイクを施し、体のラインを強調した服を着ている。

「お母さん、出て行くの?」

「あぁ、世話になったね」

「また男の人のところ?」

「そうだよ、あんたなんかよりもずっと優しくて尽くしてくれる男のところに行くんだよ」

悪びれることもなくそう言った母は、クローゼットの上にある私の腕時計やアクセサリーを鞄に投げ入れた。情けないやら悲しいやら、やるせない気持ちでいっぱいになる。

「私だってお母さんに十分優しくしてるでしょう」

「優しいもんかい、小遣いの1つもくれやしないで」

「お母さんの言う優しさは、お金なの?」

何かって言うと、いつもそう。私の存在を認めてくれたことなんて1度もない。母から愛情を感じたこともない。

「馬鹿なこと言わないで。もう行くから」

「待って!1つだけ教えて……。私がお腹にいると分かった時、お母さんはどう思った?」

「は? そんなことを聞いてどうするの」

「いいから答えて」

「堕ろそうと思ったよ、でも子供を産んだらあの男を繋ぎとめられると思った。だから産んだんだ」

最低、最低、最低。こんな最低な人から産まれたから、私も最低なんだ。

 

 

嫉妬

嫉妬

ayaka.ino  残念なお知らせがあります

私たちのべビはお空に帰りました

いつかまたパパとママに会いに来てね

*

*

旦那くんも辛いはずなのに、いっぱい励ましてくれる

優しい旦那くん、ありがとう、大好き

赤ちゃんを守れなくてごめんなさい

#べビ # またね  #流産

#パパとママのところに来てくれてありがとう

#旦那くん大好き

 

何これ、悲劇のヒロインにでもなったつもり……?見なきゃいいのに、綾香のSNSを見てはイラつきを抑えられなくなる。

流産してしまった綾香の体を心配するとか、メンタルは大丈夫なのかと思いやる気持ちはどこかに行ってしまった。悠真さんとの電話でも、聞き分けの言い女を演じられない。

『もしもし、千紗』

「悠真さん」

『悪いけど、しばらく連絡できない』

「どうして?」

『綾香の具合が悪いんだ。それに、今は綾香の傍に居てやらないと』

「夜に電話するくらいなら、」

『ごめん!綾香が呼んでるから切るよ』

 

悠真さんは、綾香が流産してから付きっきりで看病をしているらしい。そのことがさらに私の嫉妬心を煽った。連絡できないと言われていたのを無視して、電話をかける。

「悠真さん、助けて!」

『どうした?』

「部屋に変な人が来たの」

『変な人って?』

「分からないけど、インターフォンを鳴らされて……。怖いから来てくれない?」

『来てくれないって、家に? 今からは無理だよ』

「お願い……」

『僕が行くより警察を呼んだ方が良い。次にインターフォンが鳴ったら110番するんだ。いいね?』

私がこんなにもお願いしているのに来てくれないんだ。離婚したい気持ちに変わりはないって言っていたくせに、嘘つき!やっぱり綾香の方が大切なんだね。メールで文句を言ってやろうかと思ったけど、やめた。

「(自分がどんどん醜くなっていく気がする……)」

本気で人を好きになるって、こういうことなの?欲ばかりが大きくなって抑えられず、ちょっとしたことで爆発しそうになる。気持ちが通じ合っているだけで幸せだと思った1秒後には、激しい嫉妬心に苛まれる。その繰り返し。

やっぱり私は恋愛に向かなかったのかも……。だけど、もう遅い。スマホを片手に持った私は、上着も羽織らず家を出た。

 

次回はこちら▼

この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。(第7話)

こちらもおすすめ☆

x