【連載小説】理想じゃない恋のはじめ方。(最終話)

仕事も恋愛も理想通りに叶えてきたアラサーOL、高杉 汐里。 信頼していた恋人に裏切られ、自分の存在価値を見失う汐里。そんな時、幼馴染と偶然再会した汐里だったが… 仕事も恋愛も一生懸命に頑張っている大人女性に贈る、オリジナル恋愛小説。(最終話)

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【連載小説】理想じゃない恋のはじめ方。(最終話)
あいのさくら

あいのさくら

恋愛小説家

ヘアスタイリストとして働く傍ら、オリジナル小説を執筆。恋愛を中心に幅広いジャンルを書いています。書籍化経験あり。読者の方に共感して頂けるようなストーリー作りを心掛けています。

理想じゃない恋のはじめ方。(最終話)

【これまでのあらすじ】

出張のことで大和と喧嘩をしてしまったまま当日を迎え、東京駅に向かう汐里は、その道中で自分にとって大切なのは大和だと気付く。

出張には行かずに大和の勤める病院へ直行したが、そこに大和の姿はなく、1週間ほど休暇を取っていると聞かされる…

前回はこちら▼

理想じゃない恋のはじめ方。(第9話)

第1話からまとめ読み▼

理想じゃない恋のはじめ方。(第1話)

小さな救世主

小さな救世主

大和のことが好き。ずっと一緒に居たい。自分の気持ちをやっと自覚できたのに、肝心な大和と連絡が取れない。

1週間も休暇を取って、どこに行ってしまったんだろう?病院のカフェで途方に暮れていると、不意に肩を叩かれた。

「こんにちは!」

見覚えのある女の子が私に向かってニコッと笑う。この子は……大和と水族館に行った時に、偶然会った子だ。名前は確か、れいなちゃん。

「こんにちは。今日は診察?」

「ううん、おばあちゃんのお見舞いに来たの」

「入院してるんだね」

「うん、この前転んで骨折しちゃったんだって。北崎先生が担当なんだよ」

「そうなんだ」

頷きながら、大和の笑顔が頭の中に浮かぶ。たった1週間会ってないだけで、恋しくて仕方ない。

 

「おばあちゃんから聞いたけど、先生のおばあちゃんも大変なんだね」

「え?」

「おばあちゃんと同じ、転んで骨折しちゃったんでしょう」

「そうなの!?」

思わず大きな声が出る。大和のおばあちゃんって今はもう1人しかいないから、実家で同居してるおばあちゃんのことだよね。

全然知らなかった。どうして誰も教えてくれなかったの。いや、もしかして今朝、母が電話してきたのって、その件だった?

「北崎先生は他に何か言ってたか、おばあちゃんから聞いてない?」

「1週間くらい休むって」

「他には?」

「先生の元気がないって、おばあちゃんが言ってた」

あぁ、もう、私のバカ。大のおばあちゃん子だった大和のことだ、怪我をしたと聞いて不安だったはず。そんな時、傍にいてあげなかったなんて……。

「れいなちゃん、ごめんね。私、もう行くね!」

「うん、バイバイ!」

れいなちゃんに手を振り、病院の正面入口へと走る。それからタクシーに飛び乗った私は、実家方面へと向かった。

 

 

会いたかった

会いたかった

「もしもし、お母さん」

『あんた、さっきはよくも途中で電話を切って……』

「ごめん。ねぇ、大和のおばあちゃんが骨折したって本当?」

『そうよ、大変だったんだから』

「どこの病院に入院してるの?」

『○○記念病院よ』

「分かった、ありがとう。じゃぁね!」

大和のおばあちゃんは自宅で書道教室をしていて、私も子供の頃に通っていた。優しくておおらかで笑顔が素敵なおばあちゃん。私はキク先生と呼んでいた。

「キク先生!」

病室のドアを開けると、ベッドの上に座っていたキク先生が目を丸くした。ベッドサイドには……やっぱりここにいた。大和だ。

「あら、汐里ちゃんじゃない。わざわざ来てくれたの?」

「怪我は大丈夫?」

「平気よ。ほら、ここに名医がいるでしょう?」

茶目っ気たっぷりの笑顔でそう言ったキク先生は、大和の肩をポンッと叩いた。キク先生に負けず劣らず驚いた顔をしている。

「しおちゃん、出張は……?」

「行くのやめたの」

「どうして?」

どうして、だって?そんなの聞かないと分からない?1週間も放置して、電話に出ないで、挙句の果てにも消息不明になって、私がどれだけ不安になったか……。

お互い様と言えばお互い様だけど、むかつく!大和に会えて嬉しいはずなのに、その顔を見たら無性に腹が立ってきた。

「キク先生、ごめんね。ちょっと、大和を借りる」

「どうぞどうぞ~」

「大和、ちょっといい?」

 

病棟を出て少し歩くと、手入れの行き届いた中庭に着いた。人が少なくて話をするのにちょうどいい。でも、何から話そう? 怒りに任せて呼び出したけど、色んな感情が渦巻いていて整理できない。

私の後ろをずっと付いてきている大和も、何も言おうとしない。何か言ってくれたら、話しやすいのに。

――――と、

「……会いたかった」

不意に後ろから抱きしめられた。

「大和、」

「すっごく会いたかった」

耳元で大和の優しい声がする。背中から伝わる体温が心地良い。それだけで、十分だった。

「私も大和に会いたかった」

「本当?」

「当たり前でしょ、好きなんだから」

「え?」

「大和のことが好きなの」

抱きしめられている腕が緩んだので、体を回転させて大和と向い合う。すると、大和は泣きそうな顔をしていた。

「ごめんね、気付くのが遅くて」

「いや……夢じゃないよね? これ」

「頬を捻ろうか?」

「やめてよ、しおちゃん地味に力強いか、ら……」

大和の頬を両手をはさむ。それから、唇に触れるだけのキスをした。

「夢じゃないでしょ」

「今の……」

耳を赤くする大和が可愛い。

「もう1回しとく?」

「待って」

「だめ?」

「そうじゃなくて、」

大和はそこで、一呼吸をつき、

「俺からする」

私の髪の毛をそっと撫でてから、ゆっくり唇を重ねた。

 

 

仲直り

仲直り

中庭には石のテーブルと木製のベンチがあり、私たちはベンチに2人肩を並べて座った。鱗雲が浮かぶ青い空と、イチョウの黄色がキレイ。

「ごめんね、大変な時に1人にして。あと、この前はキツイことを言って、ごめんなさい」

「俺の方こそ、意地張ってごめん」

「ずっと考えてたんだけど、今の私にとって大和が1番だと気付いたの。だから、出張も断っちゃった」

明るい声で言ったのに、大和はまた泣きそうな顔をした。

「自分でも情けないよ。仕事の足を引っ張るようなことをして」

「違うよ、私がそうしたいって思ったからなの」

「しおちゃんの出張が終わったら、迎えに行くつもりだったんだ」

「そうなの?」

「俺なりに反省してたの。ガキみたいなヤキモチ妬いて、拗ねて、挙句の果てにしおちゃんを置き去りにして」

 

そう言えば先に帰られたんだよね。お互いに頭を冷やすべきだと思ってお店でゆっくりしてたけど、外に出たらもう大和の姿はなかった。あれはなかなかショックだったと言うと、大和が項垂れる。

「俺、しおちゃんの理想に近づけるように頑張る」

「いいよ、別にそんなの」

「やる気になってるんだから、水差さないでよ」

「そのままの大和が好きなのに、無理して変わることないんだって」

「しおちゃん……」

理想がどうとか、将来がどうとか、こだわっていた自分は一体何だったんだろう?思い通りになんてならなくていい。背伸びをしなきゃいけない恋なんていらない。

「大和が傍で笑っててくれたら、それでいいの」

好きって気持ちさえあれば、理想じゃなくても始められる。大和が私に教えてくれたんだよ。

 

 

理想じゃない恋のはじめ方

理想じゃない恋のはじめ方

「大和、そろそろ起きて」

「んー」

眠そうな声で返事をした大和は、瞼を開けることなくまたすぐ寝息を立てた。そりゃ無理もないか。昨日も一昨日も当直だったもんね。このまま寝かしててあげたいけど、絶対起こしてって言われるしなぁ……。

「イルミネーション、行くんでしょ」

その一声で、大和はむくっと起き上がった。

「今、何時?」

「16時半だよ」

「やばっ、あと30分しかないじゃん」

「別にそんなに急がなくても。22時くらいまでやってるんでしょ」

「17時から点灯式があるんだよ」

へぇ、そんなのがあるんだ。大和用に目覚めのコーヒーを淹れていると、匂いにつられた彼がキッチンに入って来た。

「こういうの、何かいいな」

「何が?」

「彼女がコーヒーを用意してくれるの」

「自分用かもしれないよ」

「だって、それ俺のカップじゃん」

意地悪っぽく笑った大和は、「ありがと」と言い、私の頬にキスをする。正式に付き合うようになってから、私の部屋には大和の物がどんどん増えていて、もうどっちの家が分からないくらい。

家賃が勿体ないし、一緒に暮らそうかという話がちょうど昨日出たところだ。

 

「そういや、しおちゃん、玄関の整理した?」

「あ、気が付いた?」

「うん、何かスッキリしてるなーって」

「必要ないヒールは全部捨てることにした」

「そうなの?」

「だって、これからは大和の靴も入れなきゃだ、し、」

言い終わる前に、ぎゅっと抱きしめられた。

「しおちゃんのそういうところ大好き」

「ありがと……。ねぇ、もう16時50分だけど、いいの?」

「えっ、やばっ!」

時計を見た大和は戸締りを確認して、玄関へと急ぐ。早く早くと急かされて、私も後に続こうとしたところで、不意打ちのキスがきた。

「しおちゃん、これからもずっと一緒にいようね」

改まって言われると、何だか恥ずかしくてくすぐったい。だけど、素直な気持ちをいつもぶつけてくれる大和が好き。

「うん」

笑顔で頷いた私は、スニーカーを履いて外に出た。

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