【連載小説】理想じゃない恋のはじめ方。(第5話)

仕事も恋愛も理想通りに叶えてきたアラサーOL、高杉 汐里。 信頼していた恋人に裏切られ、自分の存在価値を見失う汐里。そんな時、幼馴染と偶然再会した汐里だったが… 仕事も恋愛も一生懸命に頑張っている大人女性に贈る、オリジナル恋愛小説。(第5話)

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【連載小説】理想じゃない恋のはじめ方。(第5話)
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あいのさくら

ライター

ヘアスタイリストとして働く傍ら、オリジナル小説を執筆。恋愛を中心に幅広いジャンルを書いています。書籍化経験あり。読者の方に共感して頂けるようなストーリー作りを心掛けています。

理想じゃない恋のはじめ方。(第5話)

【これまでのあらすじ】

吹っ切れたと思っていた失恋の傷がまだ癒えない汐里だったが、久しぶりに新実課長と話し、前に進もうと決心する。

リハビリに通う病院や仕事終わりに大和と会ううちに、男らしく成長した彼のことがだんだんと気になり始めるが…

前回はこちら▼

理想じゃない恋のはじめ方。(第4話)

第1話はこちら▼

理想じゃない恋のはじめ方。(第1話)

私の理想

私の理想

「えっ! 彼氏と別れちゃったんですか?」

平日でもランチ時は激混みのイタリアンレストラン。

その奥の席に腰掛けた旭日の声が大きく響き、周りの人たちがこちらを向いた。

慌てて、彼女の口元を押さえる。

「ちょっと、周りに聞こえてる」

「ごめんなさいっ! でも、びっくりしちゃって。どうして別れたんですか?」

「どうしてって……」

振られたの、って言いかけて、やめた。

ここで旭日に同情されたら、ますます惨めになってしまう。

「リッチな彼氏だったのに、もったいないですねー」

「お金はあるに越したことないけど、やっぱり誠実さが大切よ」

「もしかして、浮気されました?」

あ……しまった。

同情されたくないと思いつつ、自ら墓穴を掘るとは。

返事をする代わりに、パスタを口に入れる。

「浮気男なんてこっちから願い下げですよ。次行きましょう、次」

「次ねぇ……」

「先輩って、どんな人がタイプなんですか?」

「そうだなぁ、背伸びをさせてくれる人かな」

「どういうことです?」

「一緒にいることで自分が成長できたり、ちゃんとしなきゃって襟を正したくなる人」

それでいて溢れるような魅力があって、オーラがあって、余裕もあって。

仕事とプライベートをちゃんと分けていて、そのどちらも充実させている。

そんな大人な男性が、私の理想。

「なるほど、先輩っぽいです。でも、そういう人って疲れません?」

私には無理だ~、って旭日が苦笑いする。

「じゃあ、旭日の理想は?」

「私は自然体でいられる人が良いです。その方が楽じゃないですか」

どうだろう? 恋愛に楽(らく)さを求めたことがないから分からない。

「たまには自分のタイプと違う人と付き合うのも楽しいかもしれませんよ」

「うーん」

「まずはそういう人と出会うところから始めません? と、いうことで一緒に合コンしましょう」

「一緒にって、旭日は彼氏がいるでしょ」

「大丈夫です!合コンに参加するまではオッケーなんで」

どんだけ、寛大な彼氏なの?

思わず突っ込んだ私に旭日は白い歯を見せて笑う。

「だって、ときめくことって大事じゃないですか」

「確かに……。ときめくことで、女性ホルモンが活性化するって言うしね」

「でしょう! 先輩、最後にドキドキしたのいつですか?」

いつって……。

思い出そうとした瞬間、大和の顔が浮かんだ。

なぜか最近、やたらとドキドキさせられている。

だけど、多分それは気のせい。

だって、大和は私の理想の正反対だもの。

 

 

ストレス

ストレス

「高杉さん、さっきお願いしたデータって、いつ頃できそうですか?」

「それならファイルに入ってるよ」

「え! もうできてるんですか? さすが! 助かります~」

ここ最近の私の仕事は、プロジェクトチームの面々が手に負えない雑務を引き受けるのがメイン。

データを作ったり、資料をまとめたり。

単純作業だけど、誰かの役に立てるのは嬉しい。

だけど、それが気にくわない人もいるわけで……。

「会議の資料は、まだですよね?こっちの方が先に頼んだんですけど」

いつの間にか私のデスクの傍に、雪村さんが立っていた。

顔は笑っているけど、目から放たれる敵意がひしひしと伝わる。

「あれはまだ日にちに余裕があるから、急ぎの方を優先したの」

「そういうのは聞いてないですけど。勝手に優先順位を決めないでください」

「……分かった。今日中にするから」

そう答えた私に雪村さんは、小さく舌打ちをして。

「目障りな女」と、呟いた。

 

『それで残業? 別に急ぎの仕事でもないんでしょ?』

「でも、言ったからにはやらないと。私の気が済まない」

『しおちゃんらしいなぁ』

電話の向こうで、大和の笑い声が聞こえる。

今朝、実家から送られてきた果物のおすそ分けをするとメールしたところ、今になって折り返しの電話がきたのだ。

『それにしても、その雪村さんって人。しおちゃんに相当な対抗心を燃やしてるね』

「本当……意味分かんない」

『ま、相手にしないことだね』

「分かってるけど、ストレスたまる」

こっちはなるべく気にしないようにしているのに。

思わず、「はぁ」と溜息が漏れた瞬間、大和が『そうだ!』と声を張った。

『気晴らしに、週末どっか行かない?』

 

 

週末デート

週末デート

週末の天気は、晴れ。抜けるような青空が気持ちいい。

マンションの下で待っていると、通りの向こうからやって来た黒色のSUV車が私の目の前で停車した。大和だ。

彼は車から颯爽と降り、助手席のドアを開けてくれる。

「お待たせ、どうぞ乗って」

「ありがとう」

「今日のしおちゃん、すごく可愛いね」

「そう? ありがとう」

気取ってお礼を言ったけど、内心ドキッとする。

シャーべットカラーのフレアロングスカートは甘すぎるかと思ったけど、これにして良かった。

「どこ行くか決めた?」

「まぁ、だいたい。しおちゃんは行きたいところある?」

「うーん、特には」

「じゃぁ、今日は俺のプランで行くということで……」

大和はそう言いながら、後部座席にあった箱を手に取り私に渡した。

「これは?」

「そのハイヒールじゃ疲れるから、このスニーカーに履き替えて」

「どこに連れて行く気?」

 

大和のプランその1は、水族館だった。

ベタなチョイスに笑ってしまいそうになったけど、色々と調べたりしてくれたのかと思うと素直に嬉しい。

発券所で並んでいると、大和が私をまじまじ見ながらこう言った。

「しおちゃん、そんな小さかったっけ?」

「いつもはヒールを履いてるからね」

「スニーカーの方が楽でしょ」

俺のとお揃い~って、自分の足を見せてくる。

「楽だけど、変な感じ」

「館内は滑りやすいところもあるからスニーカーの方が安心だよ。それに、よく似合ってる」

眩しい笑顔。

大和ってこんなに格好良かったっけ?

シンプルなインナーの上にベージュのテーラードジャケットを羽織り、下は黒のテーパードパンツ。

髪の毛もワックスでセットしており、普段と全然違う人みたい。

「(やだな、ますます大和を意識してしまう)」

急に落ち着かない気持ちになった私は、話題を変えた。

「そういえばさ、今度合コン行くの」

「は? 合コン?」

「うん、後輩の旭日に誘われてね」

「ふーん。誘われたら行くんだ」

「どういう意味?」

「別に」

不機嫌そうに答えた大和は、そっぽを向いてしまった。

何よ。そんな露骨に嫌そうな顔をしなくてもいいじゃない?

たかだか合コンに行くくらいで……というか大和が不機嫌になる理由なんて――――。

 

「北崎……先生?」

不意に小学生くらいの女の子が声をかけてきた。

彼女の方を向いた大和を確認し、「やっぱり!」と嬉しそうに笑う。

「おー、れいなちゃん偶然だね。足の調子はどう?」

「もう走れるよ」

患者さんかな。

大和のことをすごく慕っているのが分かる。

しばらく話をする2人を眺めていると、れいなちゃんと目が合った。

「先生、この人って先生の彼女?」

幼いだけあって遠慮のないストレートな質問。

れいなちゃんのお母さんらしき人が、「こら、失礼でしょ」と窘める。

そんな親子に向かって、大和は、

「先生の大切な人だよ」

そう答えた。

 

あれは、どういう意味なんだろう?

大切な人というのは、家族のような存在だからだろうか?

それとも――。

水族館の中に入った後も、そのことがずっと頭の中でぐるぐる回る。

そのせいで気が付くと、大和とはぐれていた。

どこに行っちゃったんだろう? 立ち止まり辺りを見回すが見つからない。

仕方なく進行方向に進んでみたものの、大和の姿はどこにもなかった。

「(……どうしよう)」

不安になった瞬間、腕を掴まれ引っ張られた。

「しおちゃん」

「大和! もうどこ行ってたの!?」

「ごめんごめん、はぐれちゃったね」

大和の言い方が、あまりにも優しくて。

小さい子供に戻ってしまったような気持ちになる。

「え、そんなに不安だった? 大丈夫だよ。すぐ見つけたでしょ」

そうだけど……思わず、大和の服の裾をギュッと掴んだ。

すると、その次の瞬間。

「あぁ、もうダメ。しおちゃんが可愛すぎて無理」

そう言った大和は、私をギュッと抱きしめて、

「好きだよ」

優しく耳元で囁いた。

 

次回はこちら▼

理想じゃない恋のはじめ方。(第6話)

 

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